目指せ、自転車星人!

何歳までも自転車生活

400奥只見回想記2

第3ステージ(76.4km) PC3魚沼市小出のリミットタイム15:58
 
ここから先、PC3手前の温泉まで50km以上ほとんど人家がない。ハンガーノックになって動けなくなったら熊の餌食になってしまうような地域だ(涙) 重いけどパワーバーをたくさん持参した。
私が10:35くらいに山の駅御池を出るとき、自転車のところにKさんの姿は見えなかった。トイレにでも行っているのだろうと軽く考え先行する。道はまだまだ登り。陽は射しているが標高1400mを超えておりウインドブレーカーを着ていてちょうどよい。ようやく山頂を越え下りに入る。体が冷やされて寒い。消耗を避けるためパワーバーを齧る。広い新潟県魚沼市に入った。
 
樹海ライン(酷道352号)。「洗い越し」という沢が道を渡っている個所がたくさんあるという。一番下がったところでいよいよ洗い越しのお出ましだ。道の下にも水路があり、今日は水量が少ないから最初の洗い越しに水は出ていない。しかし水による浸食対策で洗い越しはコンクリート打ち、少し窪んでいて、色とりどりの砂利が埋め込んである。スピードを乗せていきたいのだがちょっと走りづらく失速しがちになる。
ギザギザの奥只見湖を忠実にトレースする形で樹海ラインは延びている。洗い越しは沢のあるところだから低い。洗い越しを過ぎると道はぐんぐん高度をとり始め、湖につきだした小さな半島をターンしてまた洗い越しに向かって下っていく。標高差50m前後のアップダウンだが無限に続くような気がしてけっこうきつい。いくつかの洗い越しをクリアするうちに暑くなり停まってウインドブレーカーを脱ぎ、水量の豊富な洗い越しの沢で水を補給した。今回はエネルギードリンクの粉を多めに持参しているので、フロントバッグに仕込んだウェストポーチ用のオメガリザーバー(給水バッグ)につぎ足して惜しみなく飲んでいく。フレームサイズのせいで一個しか装着できないボトルケージには、掛け水にも使える真水入りボトル。
洗い越しに水の出ている個所や砂がたまっている個所がある。転びたくない。ちょっとびびりながらも脚をひたすら回して距離を稼ぐ。
 
たまにクルマやオートバイが追い越していく。日陰で休憩しているオートバイの二人連れに走りながらあいさつ。「いっしょに走っている人はいるんですか?」と訊かれた。「約束しているわけではないけれど(同じルートを走っている人は)前に一人、後ろにも一人います。」と振り返って答える。それを聞いて安心したような表情が見えた。女がひとりこんな道を昼間でも自転車で走っているのはやはり異常なことなんだな、と意識させられる。(さすがの私でも夜はここを絶対に走らない)
プロフィールマップでは奥只見湖遊覧船乗り場まで、標高差100mくらいの小ピークが3回あるようだ。PC2で「下り基調だからこの区間のアップダウンは大丈夫じゃないかな」と私は楽観的なことを口にしたが、Bさんは何か言いたそうだった。この試走に予断を与えないように黙っていたのだと思う。3回目の小ピークがなかなか来ない。この道からは永遠に抜け出せないんじゃないだろうかと不安になる。楽観したことを激しく後悔した。
 
ようやく最後の小ピークを越え下りきると、ゆるい下り。遊覧船のりば付近でトイレを探すため減速する。186.4km地点銀山平茶屋を過ぎると右側に広い駐車場があり、トイレが見えた。止まって用を足す。さあ、これから枝折(しおり)峠越え。ようやく疲れを感じたと思ったら12時間以上走り続けているのだから当然か。つらいがこんなところでリタイヤしてもどうにもならない。とにかくPC3魚沼市小出まで進まなければ。
 
187.6km地点の先、枝折峠越えはそんなに長くないが、しんどい。
『今日は魚沼に泊って、明日指定ルートを走って宇都宮に帰ろうか?』と弱気になる。
『いやいや、そんなお金を使うよりこのまま完走しておいしいものでも食べよう。』
心の中の悪魔と天使が交互に顔を出す。
ちょっとだけ押したが山頂クリア、下りに入る。
しかし下りは思ったよりタイトなワインディングコーナーの連続。ブレーキングする時間が長い。夏のアルバイトで傷めてしまった両手の握力がなくなってきた。情けないが下りの途中で止まって握力が回復するまで待つ。するとそこで後のKさんが追いつき私のことを心配してくれる。手は大丈夫だ。
追いつかれるまでにずいぶん時間がかかったと思ったら、私が席を立った後PC2で眠り込んでしまったそうだ。やっぱり声をかけてあげればよかったかとちょっと反省。でも追い越していったんだから大丈夫だよね。
こう書くとダメダメのようだが、『女サンチェス』を自称しているワタクシ、調子が戻れば猛プッシュ。1台のマーチ(女性ドライバー)と下るが、減速してくれたのでお礼の合図をして追い越した。わりとすぐノーブレーキで下れる緩斜面に入った。ここからは快適ダウンヒル。人里に出てからの平坦気味の区間がちょっと長くていやになりかけた15:11に216.5km地点PC3魚沼市小出のコンビニに着いた。
 
Kさんは座り込んで補給中だ。ここでやめちゃいたいことをこぼす。
「ここまで来たんだから完走しましょうよ。やめる理由を挙げていればキリがないし。。。」とKさんに言われる。さすがブルベ参戦2年目にしてトリプルSR達成済み、これまで出走したブルベはすべて完走している人の言うことは違う。
会津田島まで行けば列車で帰れるし」…『今から着いたって列車終わっているよ』と言いたいのをこらえ、説得されるまま再スタート準備にかかる。もう半分以上走っているんだから、とにかく只見まで行ってみることにした。十分休んだKさん、出発。おにぎり一個食べきる分だけ遅れて15:30頃私も出発。
 
第4ステージ(61.1km) PC4只見町のリミットタイム20:02
 
『只見にビジネスホテルがあったらリタイヤしちゃおう♪』
苦しくなると、私は次のPCでリタイヤすることを考える。リタイヤすることをモチベーションにして走ってしまうためだ。そこにたどりつくとまた次のPCまで進もうと欲が出るので完走につながる。しかし、このような発想で走ることはめったになく昨年の埼玉600アタック会津(これが3回目のブルベ)以来だ。
 
Kさんに遅れて午後遅くの田園を一人で走る。何だか忘れたが考え事をしていたら231.1kmの分岐を見落とし、50mくらいミスコース。あっと思って戻って見ればきちんと道路番号標識があり確認して県道70号へ進む。
234.2km地点で国道252号に出た。大したことのない池ノ峠を越えると左に道の駅いりひろせ。ちょうどKさんが小休止から復帰するところだった。声をかけ私が前になり走る。入広瀬橋が工事中で、市街地に迂回させられる。GPSを持っているKさんは不安そうだが、私はルート沿いの抜け道まで記憶してきたので、迷わず進む。一回低みに降ろされたが程なく国道に復帰できた。そこでKさん先行、屈強な体から発生する圧倒的パワーですぐ見えなくなる。またひとり。
ステージほぼ中間点の只見線大白川駅(244.4km地点手前)を小休止ポイントに予定してきた。都合よくルート沿いでトイレ、自販機があった。立ったままだが飲み物を購入して一息つく。
 
ここからの国道252号は、日本有数の豪雪地帯だそうだ。只見線に沿って登り基調、山深く分け入って行く。夕方になったからかエネルギードリンクの匂いにコバエが無数にたかってきた。顔やフロントバッグ周りに舞い飛び、あるものはとまる。刺したりはしないが、耳のあたりでワンワン羽音がうるさい。スピードを上げると少しは振り切ることができるのだが10km/h以下だとかなりわずらわしい(笑) 15km/hになると気にならなくなるが、ハエのために脚を使い果たすのは馬鹿らしい。たぶん日没と同時に奴らはいなくなると考え、登りに集中して無理せず我慢に我慢を重ねた。片手でハエを追い払いながら登坂するのは何とも効率が悪いのであったが…。暗くなってきて案の定ハエ共はいなくなった。
 
この区間にはスノーシェッドが数えきれないほど設けられている。中を通っていると、絶え間なくスノーシェッドにものが当たる音がする。何だろうとしばらく考えたが、小さな落石が始終起こっているのだと思い至った。スノーシェッドはロックシェッドも兼ねていて、道路開削により露出した岩盤が豪雪でもろくなっているのだ。シェッドがなければいつ落石に当たってもおかしくない区間である。早く通り抜けたい。
 
通りかかるクルマもほとんどないが、ここは日が落ちてから女一人で自転車に乗っていては絶対いけない区間だと感じた。昨年一人で新潟まで行ったとき深夜1時台に勢至堂峠を越えたが、3人の最後尾を走る今はそのときに匹敵する緊張感だ。同走者の多い本番ならこのルートで一人になることはまず避けるのだが、、、今日は泣く児も黙るスタッフ試走。頼れるのは自分だけだ。 
しかし内心は『只見に着いたらおふとんで休めるかもしれない』。そればかり考えて走った。
 
しんどかった長い登りもようやく終わり、長い長い六十里越(ろくじゅうりごえ)トンネルをくぐる。トンネル先の下りに入ったらいきなり工事中ダート区間があってあせった。大きめの砂利を避けながら街灯のない暗闇、走りづらかったがなんとかクリア。
田子倉ダムの電力所らしき灯が見えた。ようやく只見の街かとほっとする。が、それは甘かった。プロフィールマップでは下りきる手前に小さな登りが表示されている。実際に走ると小さくない。期待した分だけ登りにさらされる落胆も大きく、フラフラになって登りをこなし、ようやく電力所下の271.7km地点を左折した。平坦気味の下り。ほっとしたのも束の間、市街の前にまた工事中ダート。道の悪さに怒りながらビジネスホテルを探すが高そうな旅館や民宿ばかり。リタイヤのきっかけを見つけられないまま19:34にPC4に到着した。
 
PC4の只見ショッピングセンターではKさんが食料を大量に買い込み休憩していた。寒いという。走りながらあまり食べていないみたいなので、ハンガーノック気味なのだろうか。それとも睡眠不足と疲労代謝が落ちているのか。プロフィールマップをもとに「最初の(山口)トンネルまではほぼ平坦だと思う」と言うと、少し安心したのか雨具を着てここで少し寝ていくそうだ。私は屋外にあるトイレを使い、パンを二種類食べて20:00頃出発。仮眠をとる余裕がまったくないのがツライ。でも集中!(つづく)